柊一颯がシェアハウスの自室でコードを書いていると、隣の部屋からピアノの音が聞こえてきた。深夜二時。しかも同じフレーズを何十回も繰り返している。壁を叩いても止まない。
翌朝、共用キッチンで犯人と対面した。瀬名泉。音楽プロデューサーだという。寝癖だらけの髪にだるそうな目、しかし指先だけは異様に繊細そうだった。
「昨日の深夜のピアノ、非常識だろ」 「あー、ごめん。締め切り前で。でも君もさ、朝四時にキーボードのカタカタ音、結構響いてるよ?」
一颯は言葉に詰まった。お互い様だったのだ。最悪の第一印象から始まった二人の共同生活。だが一颯は気づいていなかった。泉が弾いていたあのフレーズが、一日中頭から離れないことに。